The Sims 4 #9 女王の音楽葬・後編

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TS4 ポーズ撮影会

その後、最後の家長候補、長老ヨアキム率いるオーケストラ「ヘルミ・フィル」は、ティモ派の団員の欠場により外部の臨時奏者も多数の中で健闘し、献奏を締めくくった。だがメディアを賑わせたのはもっぱらヤンネ派のゴシップで、レコは一躍有名人となるのだった。

フルオーケストラが再現できないのでヨアキムの写真が撮れませんでした……

舞台袖で気を失ったミカも目を覚まし、かつて親しく育った同母兄弟は、ホールの控え室でようやく本音の対話を果たす。

「それにしても、おまえがずっと曲を書き溜めてたなんて、俺はちっとも知らなかったのに、ヤンネは知ってたのか……トゥオモは?」
 一歳上の同母兄と一番親しかったのは自分だと信じていたから、その秘密をまったく知らなかった、という事実はほんの少し感傷をもたらしたのだ。
「いや、ヤンネも知らなかった。きちんと演奏したことなんて一度もなかったから、誰も知らなかったよ、シーラスと、女王クイーンの他は」
「ん? 女王クイーンが?」
「そう。どうして伝わったのかはわからないけど、シーラスが裏切るはずはないから、誰か他の奴が盗み見て、告げ口したんだろう。当然だけど激怒されて、破門を示唆されたし、楽譜は全部燃やされた。わざわざ僕の目の前で、暖炉に放り込んでさ。火事になって、焼け死んでしまえばよかったのに」
 とミカは酷く冷たい響きで言い捨て、
「あの譜面も、記憶を頼りに後で書き直したんだ、おかげでさらに悩んで余計に空白が増えた」
 と付け加える。
「へえ……。つまり、おまえがあのババアを殺したいほど恨んでたのは、それが理由ってわけか」
 レコは驚きつつも納得する。

〔……〕

「けれど確かに、もういい。復讐は果たしてやったんだ、あいつの葬儀でさ」
「うん——そうだな」
 この兄が女王クイーンを「あいつ」などと乱暴に呼んだのを初めて聞いた、と思いながらレコは頷く。

〔……〕

「埋葬に、行かないつもりか?」
「俺は余所者なんだぞ? 葬列になんか混じったら、騒ぎになんだろ」
「だからって、お兄様たちに、最後の別れも告げないと?」
「別に、どうせ顔も見れねえだろ。空から落ちたんだ、人間の形を留めてんのかも、わかんねえよな……」
 レコが随分なことを言ったので、ミカは黙って神経質な眉をひそめる。
「そもそも、あの棺の中にさ、ほんとにみんな居んのかな、って思わねえ?」
「どういうこと」
「あの棺は全部、空からかもしれねえだろ? テレビで山の空撮映像を見たけど、あんなとこからほんとに救出﹅﹅なんてできたのか、怪しいもんだ。けど格好がつかねえから、状況がひでえから中は見られねえってことにして、派手に葬式して、体ていよく墓地に埋める」
 容赦ない物言いにミカは黙ってさらに眉をひそめたが、レコは平気で微笑んだ。
「けど、ま、俺ならずっといいな——せせこましいシケった墓地なんかより、フシリェンナヤの雄大な大自然に朽ち果てるほうがさ」

— World System: Origin-E #21

会場を後にする一般参列者に混じって抜け出したレコは、ユーアンを見舞おうと夕方の病院にやってきて、ルーテルに再会する。 一般常識のないレコは面会時間外であることを知らなかった

「埋葬の儀式はもう終わったんですか?」
「さあ、知らねえ、俺は墓なんかに行けねえし。おまえは? 来なかったんだな」
「ごめんなさい。せっかくお兄さんに招待していただいたのに」
「いや、別に……。おまえには、何の関係もねえ連中の葬式なんだし……」
 レコはぼそぼそと言ったが、内心では、あの曲を聴きたいと熱く語ってくれたはずのルーテルが自分の舞台を見に来てくれなかったことにがっかりしていた。
 それから、ふと思い至る。
「……旦那に、なんかあったのか?」
 露骨に不安そうな声で尋ねられて、ルーテルは慌てた。
「えっ? い、いえ、違うんです。その……君の大切な舞台を、どうしても僕の大切な家族と、イクァと一緒に見届けたくなってしまって——アンジュには何度も会場に行ったほうがいいと諭されたんですが」
「そっか」
 レコはあっさり頷く。
「じゃ、見てたんだな、中継」
 突然、無邪気な笑顔を向けると、
「どうだった? 俺たち」
 良くも悪くも全国の聴衆の度肝を抜いた時のスターとは全く思えない、幼子が発表会を終えて得意気に尋ねるような調子にルーテルは一瞬面食らったが、
「とっても素敵でした」
 と力強く頷いた。
「実は、ホテルで君の練習をずっと聞いていたときには、同じ旋律ばかりで、最早なんだかよくわからなくなってしまっていたんですが……。本番では、全然違いました」
 小声の告白にレコはくすくす笑った。
「ゲシュタルト崩壊ってやつ? 悪かったな、四年のブランクを三日で埋めなきゃならなかったからさ……」
 結局、ひたすら一人で自分のパートの練習を続けていたレコは、朝から深夜まで延々と、それも難易度の高い箇所を何百回も連続で繰り返したりしていたので、アンジュとルーテルは本音を言えばしまいに頭がおかしくなりそうだったのだ。
 ルーテルには区別などつかないことだったが、エレキバイオリンでロックを弾いていた四年間は、レコにとってはブランク同然だったらしい。
「いえ、とんでもない。本当に素敵でした、壮大で、物悲しくも格好いい曲で」
「だろ? 俺も全然知らなかったんだけど、ミカはすげえ作曲家なんだ。あいつ生まれる時代を間違えたよな、二百年前に生まれてりゃ今頃ヘルミリンナ伯と、それどころかリーシキンやフレイヴァルツと並んで持て囃されてたかもしれねえのに」
 ルーテルは最近辛うじて名前を覚えたのみだったが、いずれもこの世界の歴史的な作曲家である。
「けどそれじゃ、君のお兄さんになれませんでしたよ?」
「そっか……それはダメだ」
 レコが真面目に頷いたので、ルーテルは少し笑った。

— World System: Origin-E #22

ルーテルの口利きで入院病棟に入れて貰ったレコは、ユーアンが中継を見ていたことを知って驚いた。

「久しぶり……。あれから、入院したって聞いて心配してたんだけど、わけあって、ずっと来られなくてさ」
「おまえ、なんで居んだ?」
「面会時間外だって言われたんだけど、偶然会ったルーテルが副院長に頼んでくれて、入れて貰ったんだ」
「そういうことじゃねえ——いや、それはそれだが、葬式はどうした?」
「え……なんで知ってんだ」
 レコとしては、破門された自分がまさか女王クイーンたちの葬礼に出るなど、予想もしない事態だろうと思っていたのだ。
「なんでっておまえ、全国の市民の五人に一人くらいが知ってんぞ?」
「そっか……」
 レコは改めて神妙な顔になったが、すぐに笑うとぺろりと舌を出した。
「途中で逃げてきた」

〔……〕

「おまえらの出番、中継で見てたぜ」
「え? クラシックになんて大して興味ねえくせに、なんで」
「なんでってそりゃ、おまえのライブ﹅﹅﹅を見るために決まってんだろ?」
 トビアスは笑った。
「おまえの兄貴がおまえを攫ったのは明白だった。けど世に出てる情報の限りじゃ、兄貴が正攻法で勝つのはかなり困難だろう。こりゃ最終兵器としておまえを担ぎ出して、何かインパクトのあることをやらかすか——と思ったら案の定じゃねえか。レコ、おまえは本当、天性のフロントマンだからな? クラシックのステージでだって、やれると思ったんだ」
 トビアスは奇しくもオリガと同じことを、まったく我が子の自慢でもするような調子で言った。
「けど、あの厳粛な場にオリジナル曲で殴り込むってのは、俺も予想しなかった。スカした顔してとんだキチガイ揃いじゃねえか、流石おまえの兄弟だけあんな」
 トビアスは容赦なくげらげら笑い、再び眩暈を覚えて手で顔を覆いながら言った。
「……現場に行けなかったのが残念」
「とりあえず寝てろって。おまえ、入院患者なんだぞ?」
 レコは手を伸ばし、彼としてはかなり必死の強引さで無理やりベッドに寝かせた。
 トビアスは小さく舌打ちしたが、抵抗はせずに横たわると、尋ねる。
「病気で倒れてた兄貴ってのは、チェロを弾いてた奴か?」
「そう、ミカ——曲を書いた兄貴だ。それであの曲、未完成だったもんだから、俺が完成させたんだ。コーダはぜんぶ俺が書いたんだけど、どうだった? ちゃんとクラシックっぽかったろ」
 とレコは無邪気な視線を向ける。
 実のところ、バンドメンバーには散々ロックだと評されていたが、レコ自身は大真面目にクラシック風に書けたと思っていたのだ。
「良かったけど、クラシックで即興演奏インプロってアリなのかよ?」
 トビアスは意地悪く笑った。
「インプロじゃねえぞ、土壇場で原曲を修正しただけ……」
 レコはぼそぼそ言って、
「なんでわかった? まるで元からああだったみたいに弾けたと思ったのにな。後で全員に散々怒られたけど、ミカは結論としてはあっちのが良かったって」
 レコはまたぺろりと舌を出す。
「……マジかよ。カマかけてみただけなんだけど」

— World System: Origin-E #22

レコは、魔道医師アリスンが科学医療で見落とされていたミカの特異体質を発見して助けてくれたことを語り、魔道医療を拒否しているユーアンに検査を受けるよう薦める。だがレコの追求は魔道にトラウマのあるユーアンの怒りを買い、レコは彼が魔道士の実父に虐待されていた過去を知るとともに、その父への歪んだ執着を悟ることになった。

「ユーアン。ごめん——魔道の検査を受けろなんて、軽率なこと言って」
 レコはベッドに両手を突いて覗き込むと、辛うじてそれだけ言った。
「あ? おまえが軽率じゃなかったことなんて、一度もねえだろうが」
「うん……」
「肯定すんじゃねえよ、バカ」
 トビアスは横たわったまま手を伸ばすと、レコのアップにした髪を撫でた。
「合理的じゃねえことは自分でよく解ってるが、俺は魔道の術で身体をどうこうされるくらいなら、病気で死んだ方がマシなんだ……とはいえこの世には、さらに怖い事柄も、普通にあるから——そんな顔すんなよ。おまえがそこまで言うなら、考えるからさ? もう手遅れかもしれねえけどな」
「嫌な冗談言うなよ……。さらに怖いことって、何……」
「そりゃ俺が今死んで、子供らをまた孤児にしちまうことに決まってる。いや、死ぬとなったら流石に離婚は撤回して、相方には刑事を辞めてでも育てさせるが——あいつらももう三つで、いなくなった親をすっかり忘れるとはいかねえ歳だ、生涯、心に傷が残る」
 レコは再び黙って、真剣な面持ちでトビアスの顔を見つめる。五歳のその心に残った、彼にとってはまったく理不尽な深い傷は、まさになお癒えないのだと彼は内心で思った。
 視線を返しながら、トビアスは苦笑する。
「ついでに、レコ、おまえを残して死ぬのも怖えな」
「ん?」
「マジな話だからな?」
「子供らはそりゃ、そうだろうけど……なんで俺」
「そりゃ、おまえが三歳児並みに頼りねえから不安なんだろ? ったく、三つ子の親みてえなもんだ、ザハールにも呆れ果てられた」
「ごめん……」
 レコは視線を彷徨わせて、
「気を付けるからさ? 酒とか寝坊とか……バイトもクビにならねえようにする」
「出来もしねえことを適当に言うんじゃねえ。ってか今音楽バーのバイトになんざ戻る気かよ、あんだけ業界を騒がせて、立場解ってんのか?」
 とトビアスは呆れたが、レコはその言葉を遮って、
「ユーアン、死ぬなよ? メメントは、いや、俺の音楽は、おまえとじゃなきゃやれねえ。なんか、奏かなでたちに昔話をしたって聞いたけど——あの頃おまえに出会わなかったら、俺はラヤラの連中に潰されて、仲間にも相方にも裏切られて……ぜんぶ諦めて、きっと野垂れ死んでたんだ」
 意外そうにトビアスはレコの真剣な顔を眺め、少し考えたが、結局軽口の響きを作って、
「は、今だって、ちょっと目を離すと野垂れ死にそうじゃねえか……。ま、仮にって話で、別に死ぬ予定はねえから安心しろ。俺だって今となっちゃそれこそ、おまえとじゃなきゃやれねえんだ。おまえのせいでメタルなんかやってんだから、責任取れよ」

— World System: Origin-E #22

「シド! 見て見て見て」
 一区にある音楽スタジオで、オリガが新聞を手にドタドタと駆けてきた。
「なんと、ウチのフロントマンが新聞一面デビュー!……ってゴシップ紙だけど」
「『ラヤラ王国の異端児、さすらいの第一バイオリン』——見出しのセンスは最悪だが、犯罪者としてのデビューでなかったのはなによりだ」
 シドニーは笑った。オリガは容赦なく、
「でも一族にとっちゃほぼ犯罪者じゃん? まだ新しい王様も決まってないのに、女王様クイーンがいなくなって、すっかりメディアも恐れを捨てたね」

〔……〕

「それにしても、あいつがあれほど弾けるとは。伊達にサンテリ・ラヤラの息子ではないな、サンテリ亡き今、その継承者はあいつなのかもしれん」
「え? それって、バンドに戻ってこないかもってこと?」
 オリガは笑顔を消して、不安そうに呟く。
「いや、魂を継ぐという意味だ。戻ってくるだろう、四重奏団はこの場で解散する、とあの姉さん——否、兄さんも言っていただろう? どのみち、あいつがおとなしく正装など着続けられるはずもあるまい」

— World System: Origin-E #21

一週間ぶりの自宅アパートに戻ったレコは、TV番組に取り上げられる自分の話題を眺め、いつもどおり酒を飲んで寝落ちする。

友達(?)の近所の野良猫二匹とともに。原作では「人間のエゴで名付けるのは好きじゃない」という理由で名前を付けていないが、ゲーム中では便宜上「タナトス」「カローン」という中二趣味な名前が付いている

 家に帰り着いてから、冷蔵庫のビールを開けて、映画でも見ようとテレビのスイッチをオンにすると、急に、自分の写真が目に飛び込んできたのだ。
 それは葬儀の舞台の写真ではなく、数年も前にセルフで撮った「メメント・モリ」のアーティスト写真の一枚だった。
 ルーテルが言っていたとおり、女王クイーンアウニ・ラヤラ一同の葬儀で突如として舞台上に現れたサンテリの末息子の情報は、彼が本名で活動していたこともあって至極簡単に突き止められ、ゴシップ番組の格好の餌食となっていたらしい。
 早くも一族の圧力への畏れを捨てたトーク番組は、レコの経歴をフリップに掲示しながら語り合い、誰かが勝手にスマホか何かで撮ったらしい、画質の荒い、メメント・モリのライブ映像まで映し出された。
「もうちょっといいとこを流せよ……」
 レコはビールをラッパ飲みしながら呟いて、膝に乗ってきた黒猫を撫でる。
「メメントのCDをもっと作って、売っときゃよかったのか? 物見高い奴らが買ってくれて、小遣いになったかもな」

— World System: Origin-E #22

翌日、病院に戻っていたミカの傍らで、新家長決定の報を受けたシーラスは、レコに連絡をした。

 翌朝の十時頃に、レコは携帯電話の執拗な着信音で目を覚ました。

〔……〕

 トビアスに、生活態度に気を付ける、などと宣言したことは当然のように忘れて、いつの間にかソファで酔い潰れ、気が付けば朝だったのだ。
 流石に少し二日酔いの頭痛がする。
 古い携帯電話はまだ鳴っている。
 知らない番号の電話に出るべきか否か、少し迷った。昨日のテレビ番組を思ってみれば、さしものうかつな彼も、ゴシップメディアに電話番号を突き止められた可能性を考えたのだ。だが結局、通話ボタンを押して、そのまま黙って耳を澄ませた。
「レコ様、おはようございます」
 シーラスの声が言った。
「……シーラス?」
「ニュースをご覧になりましたか?」
「いや……今起きたんだ。ニュース?」
「勝ちましたよ」
 端的にシーラスは言った。

— World System: Origin-E #22

掟破りのステージは、内心で一族の世界を窮屈に感じていた者たちによって支持され、ヤンネが新しい「王」こと家長に決まった。協力した見返りにレコは破門の取り消しを打診されるが、結局、今さら家に戻る気はないのだった。

一方、引き続きの療養を言い渡されたミカは、予定していたソロコンサートを中止せざるを得ず落ち込んだが、「創作曲を演目に加えてやり直す」という新たな目標を立てて前を向くことにした。

病室でマネージャーにSMSを送るミカ ほんとはガラケー

「シーラス、携帯を取ってくれないか。ナイセルにテキストする、公演の件を調整してもらわなければ」
 ミカは件のマネージャーに全く気を許していなかったが、有能な人物ではあって、若手の彼がそれなりの規模のソロコンサートなど開催できるのも彼女の手腕のおかげだったのだ。
「ならば私が電話をいたしましょう」
「いい、反論されると面倒だ。テキストなら、無視すればいい」
「わかりました」
 シーラスは冷静にミカの携帯電話を取って渡したが、珍しく内心では少々傷ついて、スマートフォンを買ってテキストメッセージの使い方を覚えよう、と決心した。この時代、まだシンプルな携帯電話が主流だったので、電子画面の見えない彼には使うことが出来なかった。近年登場したスマートフォンは読み上げ機能などを備えていたが、彼は根が古世人の中でも保守的な方であったから、便利だと言われても現代の新しい機械に手を出す気にはなれないままだったのだ。
 ミカは横たわったまま携帯で短いテキストを送信する。五秒と経たずに返信が来て、ミカは億劫そうな顔で再びそれを開いた。
「ナイセルはなんと?」
「了解しました——それだけ」
 シーラスは頷く。
「あまり、お気に病まれませんよう」
「わかってる。ミハイロス先生の言うとおり、取り返しがつかないわけじゃないんだ。ろくに準備もできずに聴かせるのは却って不誠実だし、この際、内容も見直すことにした……新曲﹅﹅を入れる。まだ伝えていないけれど、ダメだと言われれば、ナイセルはクビにしてやるさ」
 とミカは不敵に微笑んだので、シーラスはまた驚いた。この主は、根本的に変わろうとしている。それは何より、彼が望んでいたことなのだ。

〔……〕

「偶然にもアリスンに会えて、真にようございました。私は何もできませんでしたが」
「そんなことはない。本当のところ、今も簡単に言葉にはできないほど……不安で、苦しかったんだ。おまえが傍に居てくれなければ、きっと挫けていた」
 シーラスは再びその髪を優しく撫でながら、この不器用でプライドの高い主の、ほとんど初めて聞く本音の吐露をじっと聞いていた。
「そもそも、おまえが居なければ、とっくに僕は絶望で死んでいたんだ……女王クイーンに全てを否定された日に」

〔……〕

「覚えている? 女王クイーンに楽譜を焼き捨てられたとき、おまえはこう言ったんだ、譜面は死んでも、音楽は死なないって」
「はい」
「けれど音楽にも死はある。むしろ永遠の命を得た音楽など、こと、この世界においてはほんの一握りだ」
 ミカは淡々と言った。この世界とは即ちクラシックの世界だろう。
「あらゆる世の歴史の中に数多の曲が、書き残されず口承もされず、密やかに息絶えてきた。否、たとえ書き残されようともだ、無数の音楽が、無名の作者の死とともに顧みられもせず死んでいった。……あのとき、おまえの言葉を聞いて、僕は思ったんだ……まだ生きなければと」
 事件を一切話題にしなかった代わり、ミカは一層身辺に注意を払った上で、何ヶ月もかけて過去の曲をすべて記憶を頼りに書き直した。情熱の火は消えることなく、むしろいっそう強くなって、それからの数年で、新しい大曲を幾つも書き上げた——相変わらず一向に完成しなかったのは、かの第一バイオリン奏者に捧げる葬送曲だけだった。
 警戒を強めたミカは書いた曲を一切の断片たりとも弾かなくなったので、シーラスにはその内容はまったく推測することも出来なくなってしまったが、いつか世に出ることを彼は切に願い、同時に疑わなかった——いつかミカの音楽が永遠の命を得ることを。

— World System: Origin-E #22

同時にミカは、復帰の暁には、「女王」に定められた従姉エルセとの婚約を合意の上で解消し、一族の目を怖れて隠していたシーラスとの交際を公にすることを決意する。

新家長のヤンネは、手始めに、長らく受け継がれてきた古典至上主義の一族の掟、「ラヤラ家憲」を改訂した。

 従来、誰も真面目に全文など覚えていないほどに長々しく多岐に亘って細かかったそれを、ヤンネは一文を残してばっさりと削除した上で、一条だけ追加した。
「一つ、ラヤラの誇りを忘れないこと。二つ、進歩を続けること」
「それだけにございますか?」
 相談を受けた家令のペルトネンは流石に驚いた。
「シンプルでいいだろう。そもそも本来こんなものは、各自の心にあればいいだけだ。だがいきなり何も無しとしては不安な者も居ようから、残してやるだけさ」
「よろしいかと存じます」
「そして誇りを忘れ、進歩を怠りたい者は、好きに出て行けばいい。別に、姓を変えろと裁判を起こしはしない」
 とヤンネは皮肉った。
「はい」
 母ほどの年齢の家令と若い王キングは顔を見合わせて笑う。

— World System: Origin-E #22

* 過去にアウニは、業界に登録されている(?)ラヤラの名義でロックバンドをやるのは違法だとしてレコを訴えたが、敗訴した。

兄たちが各々変わろうとする中、レコはようやくバイオリンへのコンプレックスを克服し、クラシックとの和解へ一歩踏み出すことになる。

登場人物

レコ・ラヤラレコ・ラヤラ
ヤンネ・ラヤラヤンネ・ラヤラ
ミカ・ラヤラミカ・ラヤラ
ルーテル・エクヴェルトルーテル・エクヴェルト
ユーアン・トビアスユーアン・トビアス
オリガ・リャビンスカヤオリガ・リャビンスカヤ
シドニー・マッケロウシドニー・マッケロウ
シーラス・ヘインシウスシーラス・ヘインシウス
カティヤ・ペルトネンカティヤ・ペルトネン
サンテリ・ラヤラ家の家令兼執事

脇役&エキストラ

タナトスタナトス
レコのご近所の野良猫
カローンカローン
レコのご近所の野良猫
卞夫人<small><br>(三国機密)</small>卞夫人
(三国機密)

音楽スタジオのミュージシャン役

舞台裏

実はリストバンドの色が違う

うちでは患者さんとスタッフの相互安全のため、注意事項を見分けやすくしています

相互って……?

病院が個室ばかりでバリエーションがないので誰か大部屋に入ってくれないかな……

暗がりでソファの色に紛れちゃった黒猫

ライティングがなっていない、猫に合わせるべきだ

前々回に入れるタイミングを逃した場面

省略したが、ホテル軟禁生活の間にもいろいろあって……

イムルは「厄介三号」こと匿名の患者の側近から「秘密の場所に往診してほしい」という怪しい依頼を受け、目隠しをされてホテルに連れてこられた。危険そうな場所に職員を行かせるわけにはいかないと自ら単身で赴き、後で師匠のアリスンに叱られた

「若様、シンネマキにございます。お医者様が往診にいらっしゃいました」
「は? 往診? ここには病人なんかいねえぞ、俺の怪我もずいぶん治ったし」
 レコは訝りながら立っていくと扉を開けて、さらに訝った。
 シンネマキの隣に、百五十センチあるかないかの小柄な茶色い髪の少女が、白衣姿でちょこんと立っている。
「こいつが医者?」
 レコは無遠慮にイムルを指差してシンネマキの顔を見た。
「おはようございます。アスクリット病院副院長のイムル・デ=ユレクと申します」
 イムルは冷静に一礼したが、内心では、顔中ボディピアスだらけの上に両腕には髑髏のタトゥをびっしりと入れたレコの物騒な風貌に身の危険を感じ、魔道士として咄嗟に防御できるよう警戒を強めていた。

— World System: Origin-E #21

不眠症だと言って寝ていないレコを心配したルーテルがシンネマキに相談したところ、彼がヤンネの指示でアスクリット病院に依頼したのだった。結局、天然のレコがうっかり本名でサインしたので身バレしたが、イムルとアリスンはしばらく「二号」と「三号」が実の兄弟であることには気付かないままだった。

使用ポーズとCC

コンサートホール・控え室 GREEN ROOM

Poses: Grownasssimmer / ssiat
Build/Buy CC: Felixandre / SSTS / sonderlvnd / SIMcredible / Cliff029

音楽スタジオ MUSIC STUDIO

Poses: MelBennett / NovaPark
Lot: "Studio Echo" by Rheya28 (Modified by me)
Build/Buy CC: Pierisim / Harrie / Tuds / Around the Sims / SIXAMcc / SIMcredible / kardofe / Felixandre

病院・廊下 HOSPITAL HALLWAY

Poses: simmer_creator / LiBet
Lot, Build/Buy CC: see #007

病院・病室 HOSPITAL ROOM

Poses: Maoni_cat / Simmerianne93 / SamsStudio / Anika / Katverse / Fenrir
Build/Buy CC: see #007

レコのアパート REKO'S APARTMENT

Poses: Katverse / sciophobis / simsgami / Sim-plyreality
Build/Buy CC: Various creators... (散らかりすぎて把握不能……)

ヤンネの書斎 JANNE'S STUDY

Poses: MelonSloth / simmireen
Build/Buy CC: SSTS / Felixandre / Anachrosims / Natalia-Auditore / MelBennett

ホテルの部屋 HOTEL ROOM

Poses: Fenrir / Akuiyumi / Moc / Wasset
Build/Buy CC: see #006