The Sims 4 #8 女王の音楽葬・前編
ノヴァトリス市三区にある、新古典主義建築の荘厳なヘルミリンナ・ホールは、ラヤラ一族が所有する、ユーテルニアのみならず全球有数の名高いクラシックコンサートホールである。
— World System: Origin-E #21
ヘルミリンナ・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地でもあるこの建物を、雨の中、報道陣が取り囲んでいる。
正面入口に掲げられた旧伯爵家の紋章の入った旗は半旗にされ、抽選に当選した一般の参列者という名の聴衆が一様に地味な黒っぽい喪装に傘を差して続々と入っていく、少々異様な光景を、彼は病室の小さなテレビ画面で見つめていた。
入院中の病室でテレビ中継を見るユーアン
レコを助けた縁でヤンナに招待されたアンジュたち。ルーテルも招かれたが、彼はパートナーのイクァの元に戻り、中継で見届けることにした。例によってイクァもアリスンの病院に入院している。なおアリスンはミカに付き添って一日侍医を務めることにした
コンサートホールの壇上、奥に祭壇が設けられ、中央には花に飾られた十一の棺がずらりと並ぶ、一種異様な光景がカメラに映し出された。
— World System: Origin-E #21
この国においてはあまり見かけない、燭台に飾られた祭壇は、ラヤラ一族の故郷であるヴィーシサーリタ国の様式に則ったものらしい。
改めて、このイベントは本来葬儀であるのだ、という現実に、スタジオの空気も重くなり、ルーテルも思わずイクァの手を再び握ってじっと見入った。
それぞれの棺には、故人の顔写真と名の入ったカードが添えられている。中央の一つにだけは旧伯爵家の紋章の入った青い旗が掛けられており、遠目にもアウニ・ラヤラの棺であることが見て取れたが、特段の豪華さは一切なく、旗を除いては棺も花も他の故人らと同じもので統一されていた。
〔……〕
ヨアキムがマイクを取り、開式の辞を述べた。
家長が空位であったから、正式の喪主は定められていなかったが、最年長のヨアキムが一応の代表者となっているらしい。
アウニの次弟である、今年八十三歳となったヨアキムは、先日の記者会見を欠席していたこともあり健康状態を懸念されていたが、カメラが捉えたその姿は足取りも声音もまったく堂々としており、まだまだ現役といった風情であった。
とはいえ、一時しのぎの見せかけであるかもしれない、とルーテルはやや疑いながら画面を見つめる。
つい昨日まで起きあがることもできないと聞いていたはずのミカは、まったく涼しい顔で、いつもと変わらぬ優美な佇まいでヤンナの隣に立っている。
やはり一同の中には、レコの姿はなかった。
カメラがそれぞれの顔を捉え、モーニング姿で完全に紳士にしか見えないヤンナには、スタジオに一様に疑問を抱く空気が流れたが、ルーテルが真面目なチャンネルを選択していたおかげで、厳粛な場の空気を読んで、露骨に疑問を口にする者はいなかった。
「——このステージは、十一人の家族の魂の安息を祈る場です。演目を目にされ、相応しくないと思われた方もおられるでしょう。ですがこの『四月』は、少年時代の私が初めて女王に認められた、忘れ難い思い出の曲なのです。彼女をまさに四月に喪うとは、幼き私は想像もしませんでした」
— World System: Origin-E #21
ティモは徐に客席に背を向けると、祭壇の方を見つめる。
「女王——否、お母様。天賦の才を備えていた兄とは違い、私は実に不器用な息子でしたが、それでも必死に走り続け、あの日より少しばかりは巧くなりました」
思いがけない言動に、少しばかり客席がどよめく。
傍らに立っていた息子のアルヴィがさっとマイクを取ってさりげなく声を拾っていたのを、どこか作為的だ、と思いながらルーテルは見ていたが、それでも全く胸を打たれなかったといえば嘘になる。
ティモは再び客席の方を向くと、マイクを戻し、
「私はこの曲を、一人の息子として母に捧げます。今だけは、偉大なる女王アウニではなく——厳しくも優しかった、我が愛する母、アウニ・ラヤラの魂に、どうか祈りを」
ティモは兄サンテリを贔屓するアウニを内心恨んでいたとレコに聞いていたルーテルは、疑いながらも少し心打たれたが、ユーアンは後に「演技派の狸親父」と評した。
拍手に包まれ、ティモ一派がステージを去ってから、暫しの空白を挟み、モーニング姿のヤンナ——正確にはヤンネ・ラヤラが一人で登場した。
— World System: Origin-E #21
いよいよ客席はどよめきを隠さない。
ヤンネはアンジュが往年のダンディな映画スターのようだと思ったその物腰で、マイクの前に立った。
知的な灰色の目が静かに客席を見渡す。
「サンテリ・ラヤラの次男、ヤンナ改めヤンネ・ラヤラだ」
とだけ名乗ると、
「私は叔父様のように雄弁ではない。思いは、私の音で伝えよう」
ヤンネは、一族の祖先、ヘルミリンナ伯爵ことエサイアス・ラヤラのヴィオラ独奏曲を演奏する。これまで女性として活動していた彼の下馬評は「次世代の女王となるには地味」などというものだったが、優美なティモとは正反対の挑戦的な演奏を披露して聴衆に印象を残す。舞台袖で聴いていたレコは「弔辞ってより果たし状」と笑った。
「選曲もいいでしょう?」
隣に座っていた、綺麗にまとめた赤毛に喪装のトーク帽を被った従姉のエルセが言った。
「いい曲だけど、初めて聞くな……」
とレコは言った。
「偉大な祖先の曲を知らないのか?」
ミカは思わず軽蔑の声を出したが、エルセは冷静に教えて、
「エサイアス・ラヤラがまだ十代の頃に書いた曲よ。確かに今ではあまり演奏されないけど、この時代には希少なヴィオラ独奏の名曲ね、彼はヴィオリストでもあった」
「この曲が評価されたことは、彼が作曲家として世に出るきっかけとなった——即ち一族の一つの転機であり、今の僕たちにとって、先達のマイルストーンだとも言える。当時の社会では、貴族の子弟が職業音楽家を志すなんてあり得ない非常識だった。それでも彼は進んだんだ、自分の心に溢れてやまない音楽をこの世界に残すために……」
とミカは補足したので、クールな声音の中に滲む熱に、一同は彼がその偉大な祖先に少なからぬ共感を覚えていることを悟った。
「へえ……? けど、そんな背景なんてみんな知らねえだろ。なんか一言言や盛り上がんのに。くそ、MC代わってやりてえ……」
「盛り上げてどうするのよ」
エルセが大いに呆れる。
「全国中継されているんだ、放送事故になるじゃないか」
ミカは先日のライブで聞いたカースワード入りの下品な煽りを思い出しながら噴き出し……〔……〕
「けど、知らなかった。姉貴——じゃねえヤンネが、あんな……不敵な音を出せるって」
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「いや、お姉様には出せなかった。彼はまさに生まれ変わろうとしているんだ、僕たちの偉大なる王としてさ」
「ここで一つ、謝罪と報告を」
— World System: Origin-E #21
カルテットのための椅子と譜面台がセッティングされたステージ上では、ヤンネが再びマイクに向かっていた。
「我々ラヤラ・ヴェリエト・カルテットは、リーダーである兄トゥオモを失い、活動の継続は困難であると判断した。ゆえに次の曲は、演奏されない」
客席が再びざわつく。
「ただし——代わって、我々残された兄弟は、新たな四重奏団を結成した。名は、ヴィルスタンピュルヴァス・カルテット。ラヤラの故郷ヴィーシサーリタの言葉で、里程標を意味する」
三人のメンバーが入場してきた。
客席のざわめきがいよいよ大きくなったが、ヤンネは気にも留めず、
「皆様に兄弟たちを紹介しよう」
と手を挙げて少し微笑んだ。
「チェロ、親愛なる我が弟、ミカ・ラヤラ」
ミカがクールな微笑を浮かべて優雅に一礼する。
「第二バイオリン、聡明なる従妹エルセ・ラヤラ。そして——」
客席の視線とカメラが、一斉に、モーニングコートの正装に似合わない、脱色した長い髪を複雑なアップに結った、見慣れない美貌の青年の姿を捉えた。
「第一バイオリン、トゥオモが最も愛した私たちの末弟、レコ・ラヤラだ」
レコはロックのステージさながらに右手の弓を高く掲げると、不敵な笑みを向け、それから一礼した。
客席がさらにどよめき、報道陣はひきりなしにカメラのフラッシュを焚いて、会場の外ではテレビ各局のアナウンサーが戸惑い、舞台袖では一族たちが予定外の事態に顔色を変えて右往左往していたが、ティモらも流石に壇上に突入して止めることもできなかった。
「それから——叔父様に倣い、我ら兄弟の我が儘を、私的な追悼を許されたい。次の曲は我らが最愛の兄、トゥオモに捧ぐ」
とヤンネは言って、ミカたちは思わず内心で驚いた。このアナウンスは、彼のアドリブだったのだ。
それからヤンネは、完成に伴って変更してしまったはずの標題を告げた。
「ミカ・ラヤラ作曲、レコ・ラヤラ補作曲、『去りし第一バイオリン奏者のために』」
医師アリスンの尽力によりミカも無事に舞台に立ち、崩壊したかつての「ラヤラ・ヴェリエト・カルテット」は「ヴィルスタンピュルヴァス・カルテット」として一日限りの復活を遂げ、掟破りの「新曲」をゲリラ演奏する。なおレコは「なんか舌噛みそうな名前のカルテット」とか言って名前を覚える気がなかった
突如「次男」として登場したヤンネと「存在しないはずの末弟」レコは、ライブ中継していたメディアを混乱に陥れ、舞台裏のティモらを大慌てさせたが、会場内外の聴衆は彼らの新鮮な演奏に引き込まれていく。
イーデンも、この中継を学生達に交じって勤務先の大学で見ていた。
……何分にもここは音大だったから、クラシック界の女王一同の音楽葬は学生たちの一大関心事となり、日曜日にもかかわらず大勢が寮に残って中継を見ていたのだったが、ことに本格的なオーディオシステムと超大型テレビを備えたこのラウンジには、国際サッカー大会の決勝戦並みに大人数が詰めかけてぎゅうぎゅうだった。
とはいっても、ゴシップニュースかエンタメイベントかという関心を寄せる世間一般とは異なり、学生たちには女王やサンテリらのファンも少なくはなく、ファンならずとも多くはこの世界的喪失を心から悲しんで、真面目な追悼の気持ちで集っていた。中には喪服を着てハンカチを握りしめ終始涙ぐんでいる崇拝者すらいる。〔……〕
やがて第一バイオリンが主旋律を受け継ぐ。兄弟の複雑でテクニカルな音のハーモニーが、レコの空想した「墓場の死の舞踏」を圧倒的な存在感で繰り広げ、第二バイオリンとヴィオラも完璧な調和を見せて、学生たちは各々に感銘を受けながらじっと画面に見入る。
— World System: Origin-E #21
そんな彼らの後方の壁際に立って、実は目下この大学で非常勤講師を務めていたイーデン・タンは、腕組みをしながら中継を見ていた。
行方不明のレコは、秘密裏にヤンナ・ラヤラの元に居るはずだ、というトビアスの結論を伝えられていたので、ステージに登場したときにもさほど驚きはしなかった。むしろ彼の意表を突いたのは、普段とは全く違う、上品な貴公子然とした佇まいの方だったが、いざ弾き始めると、完全にレコはレコだった。
「ロックだね……魂は隠せない」
そして、アンジュと奏、さらに調とイムルの四人は、会場の参列者席の前方で、この歴史的な演奏に聴き入っていた。
奏が双子ピアノデュオとして活動していることをミカに聞いたヤンネは調も併せて招待し、レコが世話になったということに加えてアリスンの縁もあったイムルまで招かれた。調は勿論いそいそとやってきたが、イムルは音楽に興味もなく、ラヤラ一族に特段の義理もなかったから、アリスンが終日不在の中で自分まで病院を空けるわけにはいかないと欠席しようとした。だが、またとない機会だとスタッフたちに背を押され、結局来てしまったのだ。〔……〕
やがて四重奏曲に至って、奏はすっかり感極まって、同時にまったく大きな後悔と反省をしていた——ほんの十日前に、ミカを顔で売っているだけの凡庸な音楽家と評してしまったことを。
— World System: Origin-E #21
その晩、病院に戻ったイムルは、
「音楽というのも、いいものですね。正直のところ私は、芸術というものはどんなに素晴らしくとも添え物にすぎず、人の根源に何かを与えることはないと思っていましたが——それは間違いだったのかもしれません」
としんみりアリスンに語ったのだった。
※省略されたがイムルはレコが軟禁中のホテルに呼び出されて不眠症の診療をした。
……すっかり会場を呑み込んだ曲は、レコが書き足した最後のクライマックスに至る。
— World System: Origin-E #21
突然、レコは弾きながら勢いよく席を立った。
さすがに観客たちは、空気を読んで声こそ出さなかったものの、皆驚いて彼の動きを見つめる。
世の中にはバイオリニストが立って演奏するスタイルの楽団もあったが、曲の途中で立っていくなど誰も見たことがなかった。
会場の動揺などものともせずに、レコはステージのセンターの、ほとんど客席ぎりぎりに立つと……
レコはメタルのライブさながらのアグレッシブな演奏で聴衆の度肝を抜いた挙げ句、「なんか(インスピレーションが)降ってきた」という理由で即興演奏を始めて兄弟たちを内心焦らせたが、猛者揃いの「ヴィルスタンピュルヴァス・カルテット」は演奏を完遂する。
実のところ、レコの一連の動きは完全なアドリブで、この計画にあたり必要最低限の情報を共有されていたヤンネ派の舞台スタッフらにも全くの想定外だった。咄嗟に主役のヤンネを差し置いて彼にスポットライトを当てる決断をした照明係が自分の仕事を振り返って自画自賛したのは、世間が知る由もないことだった。
— World System: Origin-E #21
登場人物

ティモの妻・チェリスト

ヨアキムの長女
エキストラのみなさん

(バルタザールの母)
一般参列者役

(バルタザールの父)
一般参列者役

(デュドネの妹)
一般参列者役

(マヤの夫)
一般参列者役

(三国機密)
音大生役
二次創作シムまで駆り出されはじめる

(ギャラリー)
音大生役
舞台裏
紋章とか作ってみたのにほぼ映らなかった棺など
※リカラー用PSD付き、棺用の旗!→Flags for cars and coffins - BatsFromWesteros ニッチなCCがあるものだ(賞賛)横の棺はATSさんのです
後からミスに気付いて撮り直したいことが多かったので、ポーズ時の配置を完全再現できるよう、小さいオブジェクトをマーカーとして置いた状態でセーブ。(この例だとただの横並びのようだが微妙に位置や角度がグリッドに沿っていない)「Pose Alignment Interactions」でそこに合わせることにした。構図に映り込む場合は透明OMSPを置くか、スクショ前に削除する。
余談ながらMacのマウスには中ボタンがないのでBetter BuildBuyのお気に入り機能を使うのに一工夫要ったりする(私はBTTでキーを割り当てて使っている)
出演者、エキストラに駆り出されたバルタザールの両親、傘係の透明人間など総勢16人世帯
開いている傘のオブジェクトがなかったので透明人間が差しているが、誰かに喪服を着せてデコシム群衆に紛れ込ませた方がよかったかもしれない
生活プレイで使用しているお気に入りのコンサートホール(プレイ日記33話参照)の前で撮ろうとしたが、区画ギリギリまで建築があってポーズを使用するには不便だったので、奥の方を削除して移動し、フェイク道路を追加
透明フェンスを設置して通行人を入れなくしたはずが、急に扉が開いて……!? と思ったら、暖炉があったせいでまさかのファーザーウィンター登場。春なのに!(UI Cheatsで強引に季節・時間を変更したため)。

さっきまで冬祭りの晩じゃったのに、おかしいのう〜
この場面は最初期に撮ったため、とりわけ試行錯誤中だった。途中で出勤時間になってしまい、欠勤させられた真面目なシムが凹んだりもして……。その後、デフォシムも削除した空白セーブデータを使用、キャリアやホリデーは予め削除しておくことに。
エキストラが枯渇してきて、ギャラリーのMaxis製シムに登場して貰う。変な格好の人は着替えさせたが、Coachシムたちは流石のオシャレさんなのでそのまま
使用ポーズとCC
コンサートホール・外観 CONCERT HALL EXTERIOR
Lot: "Simberg Theater" by berryfrost (Modified by me)
Poses: Katverse / GREENSOULSIM
Build/Buy CC: kardofe / TheMarbleMortal / Fenrir77 / MLys / Lory Sims / Around the Sims
Deco Sims: The De Villier / Reigningsims / MelonSloth / catastrophe sims / madebycoffee
コンサートホール・舞台&客席 CONCERT HALL AUDITORIUM
Poses: Natalia-Auditore / Storybooksimblr / Elderwisp / MelonSloth / Simunderstood / sciophobis / Uiako / Raspberrywhimss / The De Villier / CarringtonRoyal / madebycoffee / Electric.Whims / Herecirm
Build/Buy CC: kardofe / Wondymoon / abormotova / Felixandre / SSTS / Around the Sims / BatsFromWesteros / Philo / MG24 / InnerCitySimmer
Deco Sims: The De Villier / Reigningsims / TrentonRoyals / houseofroyalsims / madebycoffee
病院・病室 HOSPITAL ROOM
Poses: Eclypto
Build/Buy CC: see #007
大学ラウンジ COLLEGE LOUNGE
Poses: Simmerianne93 / simmireen / madebycoffee / Electric.Whims / 3TP
Deco Sims: The De Villier / lazysimmies / Akuiyumi
Build/Buy CC: NynaeveDesign / HARRIE























